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あんなぷるな道中膝栗毛

5.トレッキング初日
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 12月27日、昨日迄の猛烈な下痢も大分落ちつき、いよいよ
トレッキングへ出発する事になった。
宿の主人はアンナプルナベースキャンプ(ABC)への旅は、
ガイドとポーター(荷持ち)をつけないと
「絶対に危ない!」と言う。
我々に一生懸命、ガイドやポーター、ナヤプル(トレッキング入口)
迄のタクシー等を勧める。
勿論安全を気遣っての事でもあるが、宿を通して頼むと紹介料が、
かかるので、随分と高くなる様だ。
我々は、ガイド、ポーターは最初から頼む気が無く、タクシーも
前日に直接交渉しており宿の厚意は丁重に断り、
宿で進める2/3程度の値段でナヤプルへと出発した。

 私が中学一年の時発売になったトヨタカローラ、30年も前の車が、
ここでは現役バリバリだった。
ネパールのミュージックテープをガンガンかけてブッ飛ばす。
途中からは舗装していないのと、窓全開の為寒さと埃が入って来る。
「窓を閉めてくれ!」と頼むと、何か手渡してくれる。
よく見ると窓ガラスを上げ下げする取手だった。
回りを見ると、全ての窓の取手が無い。
これ一つで全ての窓の開閉をしている様だ。
陽気な運転手に案内されて、午前10時頃無事ナヤプルに到着した。

 ここからは、いよいよトレッキングの始まりである。
河岸段丘を一段降りると、沢山の店が並び山の中に出現した
バザールといった感じである。
ここから先は、全てが歩きの旅、各村々へ戻るにあたり買い出し
のできる最後の場所なのだと思う。
沢山の生活必需品が、所狭しと並べられ、非常に活気がある。

 「もう足りない物はありませんか?この先では、必要な物を
買う事はなかなか出来ませんよ!」

と言ってくれている様で、この賑やかさが旅が始まる事を覚悟
させてくれた。
沢山の店先を覗き乍ら20分も歩くと立派な吊橋に出る。
その橋を渡ると“チェックポスト”である。

 我々は橋の袂の茶屋で、チヤ(生姜入りミルクティー)を
 一杯飲み干し、出発した。

 チェックポストは、関所と言うべき所で、ここで入山料
1000ルピーを支払うと今回のアンナプルナ山群のトレッキング
は自由に続けられる。
実はこのシステムはミレニアムに際して、つい数ヶ月前に施行
された制度だと言う。
その迄は、イミグレーション(入国管理局)にて、期間限定で
1回500ルピーを支払うと、トレッキングビザを取得できると
言う仕組みだ。

 これは2000年に際して、トレッカーから少し期間が長くても、
最初に1000ルピーを取ってしまおうという制度である。
観光立国ネパールの苦肉の策の様だ。
しかしこのシステム、短期のトレックの方には、迷惑かも
知れないが、我々の様なノンビリ派には、
とてもアリガタイシステムだった。(期間が限定されないのだ。)

 手続きを済ませ、いよいよトレッキングの始まりである。

 途中立派な登山靴や装備で身を固めた白人がDパック一つで
歩いていたりする。
その後ろを小柄なネパール人が、山の様な荷物を背負って
歩いている。
しかも足元を見ると、ビーチサンダルである。
いかんともしがたい光景の様にも思えるが、彼とサーブ(だんな)
の間には、ちゃんと金銭的契約が結ばれており、
私達の様な勝手にうろつくトレッカーより、大枚を使って彼等を
雇ってくれる客の方が、はるかにアリガタイのだと思う。
その為ポーターやガイドになりたい若者は引く手数多の様である。

 そうこうしているうちに、河原歩きからいよいよ尾根に取り附き
登り出す。
最近は春スキーでしか、山に登っていないので、鈍った身体に
すぐに汗が噴き出して来た。
正月近いこの時期でも緯度が低いせいか(奄美大島位です)、
日中は結構暖かいのだ。
山道を登って行くと次々と現れる集落から子供達が飛び出して
来たりする。

 無邪気な笑顔を見ていると、こちら迄心が和まされる。
少しずつ高度を稼ぎ、下の河原が小さくなる頃、
やっと尾根筋に出た。
丁度お昼で、一軒だけある尾根の茶屋で昼食を取る事にした。
ここは稜線の為、下から涼しい風が吹き上げて来て、とても
気持ちが良いのだ。

 ネパールでは近年インスタントラーメンと言う物が、大流行して
いる様で、日本で発明されたこの商品は、世界中を席捲している様
である。
ネパールも例外ではないのだ。
特にこういう山の生活には、とても便利な物の様で、
ゲストハウス(宿)バッティ(茶屋)のメニューには、必ず
ヌードルスープと言う項目を見つける事が出来る。

 ついでに、ビール等と言う物も注文してみた。
缶があまり普及していないネパールでは、山でも瓶ビールを
担ぎ上げる。
そんな訳でビールは一番の贅沢品ではあるが、山で飲むと特に
美味しいのだ。

 ついでに“ロキシ”等も注文してみると、有ると言う。
(ロキシはネパールの焼酎で多くの人に飲まれている。原料は稗が
一般的だが米や小麦等の物もあるという)
嬉しくなり、つい宴会になってしまった。

 なかなか出発しない私達を見て、ここを任されている娘のリサ
(後で名前を聞いた)は、このすぐ上に父がやっている
ゲストハウスがあると言う。
どのガイドブックを見ても、初日はガンドルン(まだ大分先なのだ)
迄頑張ろうと書いてあるのだが、我々はもうすっかりそんな事は
忘れていた。
リサが言うには、

 「すぐそこに見えています」

と言うので、ホロ酔い気分の私達も、重い腰を上げる事にした。
すぐそこに見えていると言うのだが、一杯の飲んでいる我々は、
やっとの思いで小屋にたどりついたのだった。

 トレッキング初日
 旅は、遅々として進まない!

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