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あんなぷるな道中膝栗毛

6. 家族(キムチェ ゲストハウス) <目次に戻る

 何故これ程親しくなったのか?
今考えて見ても解らない。
リサに教えられキムチェゲストハウスに到着したのは、夕刻
である。
既に下地の出来ている我々は、泊まる事を告げると、早速ロキシ
を注文した。

 泊り客は我々だけの様である。

 最初はリサの兄であるアルジュンが、人なつっこい顔で、我々に
話しかけてくる。
ネパールでは、レゲェが大流行している様で、特にボブマーリィ
が人気で、彼も大好きだと言う。 
大きなラジカセで、これ又大音響で聞かせてくれる。
若い頃にタイムスリップした気分だ。
しかし懐かしさよりも、電気がきていない所なので、電池の心配を
してしまった。

 私達の飲んでいる長屋風四阿と宿の間が街道になっている為、
ひっきり無しに、人やロバ隊が、荷を担ぎ通り過ぎる。
全ての物を、人やロバ達が運ぶ世界は、素晴らしい景色と供に、
文化という物を身近に見せてくれて、生活の成り立つ様が、
良く分かる。
なにやら生活しているという事に感動してしまうのだ。

 そんな中、紺の制服に身を包んだ、美しい娘が、山の様な薪木を
背負って、やって来た。
16才の娘ラクシュミは、リサの妹だった。
ネパールの女性は皆働き者で、学校帰りの少女でも、こうやって
薪を拾い乍ら帰宅する光景を良く見かける。
何とも美しい光景である。

 街道の反対側は一気に落ち込む棚田で、対面する斜面が、眼前に
広がる。
しかしその間には、アンナプルナ氷河を源とするモディコーラ(川)
が、1000m程下を割って流れているのである。

 もう20年以上も前になるが、奥秩父の山奥の村に、スタッフの
一員として、“水資源”という映画を撮りにいった事がある。
その村は後数ヶ月で、ダムの底に沈んでしまうらしく、その前に
村の伝統文化を残そうという事で、作られた映画である。

 その時訪れた村が、このキムチェに良く似た所だった。
やはり歩いてしか行かれず、すぐ前に集落が見えるのだが、
足を滑らすと手前の谷底へ、一気に落ちて行く様な所だった。
正か本当に落ちる事はあるまいが、それ程急峻で向かいの尾根が
近く見えるのである。
そんな事を思い乍ら飲んでいると、向かいの尾根にも、
ポツリポツリと灯りが、灯り出した。

 黄昏時なのだ。


 モディコーラから吹き上げて来る風も、気持ちが良い。
もう、泊まり客も来そうもないらしく、主人のラズ氏も、私達の
所で一緒に飲みだした。
このラズ氏この後すぐに分かったのだが、もの凄い酒豪だった。
“ノンベェ”同志すぐに意気投合してしまった。(言葉も
分からないのに)

 私は、持参して来た、鮭トバ、干し帆立等をラズ氏にすすめると、
余程美味しかったのか、全部食べてしまった。
ネパールでは、海が無いので海産物は、特に人気がある様だ。
もうロキシのボトル3〜4本も空いた頃だろうか

 「夜風が冷たいから家に入ろう」

と主人のラズ氏に誘われる。
もうこの頃には客では無く、家族として扱われていた。

 母屋に入ると小さな囲炉裏が一つあり、ここで殆どの料理等を
作っているのだ。
そしてこの囲炉裏に手を翳し熱くなった手で、私達の冷えた身体を、
摩ってくれる。
余程手を熱く焙っているのか、思い切り暖かいのだ。
本当にアリガタイ、スキンシップだった。
山本は、奥さんと、16才の娘ラクシュミに身体を、摩ってもらい
感激のあまり、泣いていた。
まさしく暖かい接待の中、夜は更けていった。

 翌朝、階下から聞こえてくるラクシュミの朗読で目が覚めた。
もう一時間以上も続いているのだ。
ネパール人はとても勉強熱心だ。
特に英語は、このトレッキング街道で、すぐにでも必要な言葉
なのだ。
階下へ降りて行くと、ラクシュミが笑顔を投げてよこす。
庭に出ると、ラズ氏がこちらへ来いと手招きしている。

 この席は、家族が休む席で、私を家族の一員として、扱って
くれている様だ。
ラズ氏の隣に腰かけると、早速足元にあるロキシのペットボトル
を取り出した。
奥さんにバレない様に、足元に隠しておいたのだ。
向かい酒という所か?(ノンベェは何処の国も変わらない)
2杯程頂いたが、どうもお腹の具合がヨロシクない。
考えて見れば昨日から6〜7本のボトルを飲み続けているのだ。
トイレ通いが続く為、ラズ氏の好意を丁重に断り、今日は一日
ベッドで静養する事にした。

 インド人の山本は本当に丈夫な男で、この日もラズ氏とつき合い、
1日飲んでいた様だ。
夕刻大分体調も戻り、階下へ降りて行くと、友人のマサだと、
ラズ氏が一人の日本人を紹介してくれた。
このマサこと中野氏とは、この後長いつき合いとなった。
結局又飲んでしまい、この日もキムチェゲストハウスに、
お世話になった。

 旅は相変わらず遅々として進まない。


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