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あんなぷるな道中膝栗毛

23.ミートモモとお布施の無い拝観
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 ムクチナートはトロン峠の手前、丁度ポカラから見ると、
アンナプルナ山塊の裏側に位置する。
ヒンドゥ教、チベット仏教、双方の聖地である。
回りを6000m以上の山に囲まれている為、最奥の観を呈している。
そこから流れ落ちる一滴一滴の水が、やがてカリガンダキ河を
通じて、ガンジス河へ注ぎインド洋へと流れ落ちるのだ。

 私達はエクレバッティ(一軒の茶屋と言う意味だが、現在では
3~4軒の宿がある。)からムクチナートへ向かった。
エクレバッティよりカリガンダキ河を、真直ぐ遡上すると、
“ガグベニ”と言う古い街並みを通って、“ムスタン王国”へと
繋がる。

 ムスタンはネパールの特別自治区で、旅行者が、ムスタンに入る
には、10日700ドル、その後一日増すごとに、70ドルのパーミット
を支払わなければならない。
貧乏旅行者には、とても縁遠い所なのである。

 ずっと河原歩きが続いていたので、我々はカグベニへは行かず、
一気にムクチナートへを目差した。

 久々の登りが気持ち良い。

北斜面は雪も残っていて、少しずつ高度を上げているのが分かる。
空気も徐々に薄くなっている様だ。

 キンガー村手前の道端で、おじさんがりんごとアンモナイト
を売っていた。
我々はりんごを食べ乍ら、おじさんとアンモナイトの、交渉をして
いたのだが、いつ迄たっても買わない我々に、シビレを切らした
のか、

 「デレーラムロ♪デレーラムロ♪(最高だ!最高だ!)」

と、唄を歌い出した。
歌と言っても、その一言を繰り返しているだけなのだが、
心和ますその唄に敬意を表して、アンモナイトを買う事にした。
りんごを、おまけにつけてくれた。
山本は殆どガスも無く、火付きの悪い100円ライターと
アンモナイトを交換していた。

 便乗商法の旨い奴なのだ。

 その後要塞の様な作りの、ジャルコットの村を過ぎ、
ラニポワには午後早くに着いた。
この先のムクチナートには、宿泊施設が無いので、ここが最終
宿泊地となっている。
トロン峠を越える場合も、ここへ泊らないと、この先が大変の様
である。
我々は一月のこの時期、標高5400mのトロン峠を越えるのは
難しいと思い、ムクチナートを最終目的地としていた。

 宿泊の決まった宿での夕食時、ロキシを飲み乍ら、チキンモモ
(鶏肉の入ったネパールの餃子)を注文した。
同席していた山本氏に、

 「聖地に来て肉を注文するとは、何事か!」

と叱責された。
しかし乍ら、そのモモがなかなか出てこない。
宿のおかみは、頻りに表に出、裏を行ったり来たりしている。
私と山本氏は、

 「まさか今裏で、鳥を殺めているのでは、あるまいか?」
 「それを今まさに茹で、毛を毟っているのではないか?」
 「まだ一時間も、かかるのか?」

等と、妄想していると、そのモモがやっと出て来て一安心をした。
一月近く鶏肉を食べていなかったせいか、そのチキンモモが
とても美味しかった。
一口食べて余程気に入ったのか

 「明日もこれを注文しよう!」

と、山本が言っていた。

聖地の夜_ムクチナート

 翌朝も快晴、我々は朝一で標高3800mにある聖地を訪ねた。
4月から5月は大勢の巡礼者で、賑わうと言うが、今は殆ど人影も
見えず、秘っそりとした参道を、登って行く。

 参道には、経文の書かれた“マニ車”という物が沢山並んでいる。
このマニ車(回すと経文を一度唱えた事になる)を回し乍ら
最初に尋ねたのは、チベット仏教寺院である。
 
 中では参拝に来た信者のオバさん達が、“五体投地”(身体を
地面に投げ出す)のスタイルで、お参りしている。
本尊の観音菩薩の下は、聖水が流れている様で、オバさんの一人が、
菩薩様のスカートの様な垂れ幕を、たくし上げ見せてくれた。
岩肌から流れ落ちる水の周りを、青白い炎が静かに燃えている。
これはここから天然ガスが、湧き出していて、いつも燃えている
そうだ。

 何千年も燃え続けているのだろうか?
 何だかとても神々しく感じられた。

 参拝を済ませ戻って来ると、聖地の中央に、今度はヒンドゥ教
の寺院が現われる。
寺院の回りは水が湧き出し、日本風に言うと、軽井沢等の白糸の滝に
周囲を囲まれた、水の寺院といった感じで、ここも神聖な趣きの
ある場所であった。
中へは信者だけしか入れない為、私はその裏の小道を、ブラブラと
登っていったのだが、上にもう一つ建物があった。

 立ち去ろうとすると、二階の窓から6~7才の女の子が、
こちらへと手招きしている。
誘われるままに、中に入るとそこがもう一つの寺院、チベット仏教
ニンマ派の寺院だった。

 少女は本堂を開けて、中へ私を案内してくれた。
開祖のパドマサンバヴァ像の回りの壁は全て、極彩色のマンダラが、
描かれている。
私も絵を描く者として、合掌し乍らゆっくりと、マンダラを
見ていると、住職と思われるおばあさんが入って来て、私に合図を
送って来る。
見るとサンバヴァ像の前には、お布施のお金が、沢山置いてある。

 「しまった!」

先程山本氏に、お金を預けた儘なので、今は一文も持ち合わせが
無いのである。
住職と少女に詰め寄られ乍らも、私は合掌している両手を一段と
高く上げ、

 「ソーリー! ソーリー!」

と頭を下げたのだが、あの女の子にいとも簡単に、表へつまみ
出されてしまった。


【 教訓 】

 聖地や寺院を訪れる時は、小銭でもいいから、ポケットに忍ばせて
 行こう!
 これは、大道芸やトイレを借りた場合も、必ず要求されます。

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