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あんなぷるな道中膝栗毛

25.ボミラーズレストラン(オールドジョムソム)
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 気の重い旅立ちだったが、エクレバッティを出発して、
ジョムソムへ向かう。
途中吊り橋を渡る羊の群れと、遭遇した。
長い吊り橋を人は誰もいないのに一定間隔で、整然と並んで歩く
黒い羊は、とても絵になっていて、随分と沈んだ気持ちを、
和ませてくれた。

 それとこれは初めて目撃したのだが、豆ロバ隊を見た。
これは大きな犬程のロバが、沢山の荷物を背中に積み、
隊商を組んでいるのだ。
何だか自分が、ガリバーにでもなった気分で、絵本から飛び出して
来た様な、かわいい豆ロバ隊を、唯々黙って見送った。

 飛行場のあるジョムソムの町の手前、橋の前後には、オールド
(旧)ジョムソムの町がある。
橋を渡って少し行くと右手に、大きな基地が現われる。
勇敢な事で有名な“グルカ兵”が居るネパール軍の基地である。

 そんな基地の前に、小さな居酒屋“ボミラーズレストラン”は
ある。
我々はエクレバッティからの旅の疲れを癒す為、その薄暗い
(電気が無いのと風除けの為か、入口を小さく作ってある。)店
の中へと入って行った。

 早速モモとロキシを注文する。

 ここのロキシは“ムスタンロキシ”麦で作るせいか、美しい
琥珀色をしていた。
ネパールに来て、一番美味しいロキシであった。
同様に“モモ”もネパールに来て食べた中で一番美味しかった。
薄暗い店にもだんだん目が慣れて、店内を見回すと、横の棚
には整然と、食器が並んでいる。

 美味しい店は、店内もきれいである。
我々は初めて入ったのだが、スッカリ気に入ってしまった。
この後飛行機の飛ばない三日間、足繁く通う事になった。

 店を出た後はジョムソム迄行き、宿と飛行機のチケットの手配
をした。
山本氏の足が、大分参っているのと、この頃には私の足も、
関節の油が切れて、ギィコギィコ鳴っている様だった。
山本氏が買ってくれたロイヤルネパール航空のチケットは、
他の航空会社の物より、10ドル安かった。
これはこの航空会社だけ、二日に一度のフライトの為だ。

 しかし実際には強風の為、この後三日間、何処の航空会社の
飛行機も、ジョムソム空港へ降り立つ事は無かった。
別に我々は、急いでいる訳ではないので、翌日はノンビリする
つもりで、向かいの山へ散歩がてら登って見る事にした。

 登り出して暫く行くと“ティニ”と言う部落を通過する。
一歩トレッキング街道を外れると、こうも違うのかと、驚かされる。
英語はまるで通じない。
我々が旅しているトレッキングコースは、特別な世界なのだ。
町並をスケッチしていると、子供達が集まってきて、人だかり
が出来てしまった。

 外人が来ること自体が、珍しい様である。

 途中、ニルギリは目の前で、大迫力の懸垂氷河を、横目で
見乍ら登っていると、いつしか稜線に出た。
稜線からは、もう一つの峠越えルートも、なんとなく分る。
兎に角最高の眺めである。
高度も随分と上がり、空気が薄いのが良く分る。

 宿の兄さんは、一時間で登れると言ったが、スケッチをしたせいも
あるのだが、結局五時間かかって頂上に着いた。
頂上からは数日前歩いた、ムクチナートや、カグベニから先に
広がる、ムスタンへの道も見渡せる。
頂上からの稜線は、東へ東へと伸びているのだが、いつの日か
この稜線を、テントを担いで、旅したいと思った。

 三時過ぎ頂上を後にする。

 このガレキの山は、富士山の須走りの要領で下った。
殆どスキーを、しているのと変わらない。
猛スピードで下山し、ボミラーズレストランへ直行したのは、
言う迄もない。
喉がカラカラなので、トリアエズビールを注文した。しかし

 「無い!」

と言う。
ここには、トリアエズと言うビールは無い様である。
どうしても飲みたいので、街中探して見る。
結局この街には、一本のビールも無い事が分かった。
ホテル代と同じ料金のビールを飲む地元の人間等いないのだ。
結局りんごを買って、店へ戻った。

 店では常連客が、既に飲んでいた。

 「明日払う、明日は絶対払うから、だからもう一杯!もう一杯だけ!」

とボミラーズ氏に、頼んでいる様だ。
飲んベェは、何処へ行っても変わらない。

 そんな微笑ましい光景を見乍ら飲んでいたのだが、基地の前と
言う事もあり、兵隊さんがよく来る。
その中の一人、昨日も会ったのだが、彼は軍のドカジャン姿で、
胸には、ロキシを買う為のペットボトル忍ばせて、やって来た。
彼は決まって二本分のロキシを、そのペットボトルに入れてもらう。
心優しきボミラーズ氏は、少し多目に入れてあげたりするのだ。

 「フェリベタウンラ(又会おう)」

と、立ち去る彼に声をかけた。

 「あー又な!」

と返事が返って来る。

 暫くすると、又彼がやって来た。
ペットボトルの中は、既に空である。
今度も、二本分のロキシを入れて貰う。
立ち去る彼に、

 「ペリベタウンラ!」

と又声を掛ける。
流石に照れくさいのか?

 「あー五分たったら又来る!」

と言って出て行った。
全く飲んべェは、オモシロイ!
楽しい時間を過ごさせて貰った。
我々もそろそろ退散する事にしよう。
明日のフライトが、早いのだ。

 今日で日本を旅立って、丁度一月目だった。

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