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あんなぷるな道中膝栗毛

35.金色のスカーフ
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  ポカラを旅立つ最後の夜、我々はフジモモレストランを訪ねた。
オーナーのカルマ氏に

 「旅立つ最後の夜には必ず来てください!」

と言われていたのだ。
店を訪ねると、ビールから始まり、我々の好きなメニューが、
次々と並んだ。
絵を描いた事に対する、彼の心尽しなのだ。
ありがたく頂く事にする。
最後の夜は静かに更けていった。
帰り際

 「翌朝も必ず寄ってください!」

と言われた。

翌朝はバスの時間が早いのだが、言われた通り寄って見た。
相憎、彼の親戚を送りにカルマは、空港へ行っている、と言う。

 「すぐに戻ります!」

と、奥さんに引き留められたが

 「もう、バスの時間だから」

と、丁寧に断りバスターミナルへと向かった。

 バスターミナルは、大勢のツーリストでゴッタ返していた。
この時期ツーリストは少ない筈だが、それでも世界中から、
百人を越すツーリストが集まっていた。
我々は、自分達の乗るバスを、漸く見つける事が出来た。
広々としたターミナルから、久々にマチャプチャレが顔を見せる。

 少しずつ紅く染まる、マチャプチャレを眺めているとカルマが、
私達を見つけてやって来た。
無事、親戚を送って来た様だ。
彼は、

 「これは、儀式ですから!」

と、“カタ”と呼ばれる金色のスカーフを我々の首に
巻いてくれた。
これは彼等の土地で、旅の安全を祈願する物らしい。
回りの外国人は皆、「何だろう?」と、訝し気に、見ている。
沢山のツーリストが見守る中、私はチョッと優越感に浸り乍ら、
ありがたく首にかけてもらった。

 私自身も、知らぬ国で、絵を描かせて貰ったり、こうやって
家族の様に付き会う友人が出来た事に、感謝したい気分なのだ。
バスの出発時刻が来たので、カルマに別れを告げバスに
乗り込んだ。
カルマの澄んだ目と真紅に染まるマチャプチャレに見送られて、
ポカラの街を後にした。
バスは、霧の中を一路カトマンドゥへと又爆走した。

 余談であるが、カトマンドゥに戻ってから壁画の
オープニングパーティに、参加してくれたメンバーに、バッタリと
再開した。

夕霧_カトマンドゥ

彼等にポカラを旅立つ時の話をすると、メンバーの一人、チベット
に詳しい山口君が、何色のスカーフかと尋ねてくる。

 「金色のスカーフ!」

と私が答えると

 「それは最高の人に贈る物です」

と教えられた。
別れた後に、再び目頭が熱くなる思いだった。

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