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あんなぷるな道中膝栗毛

38. トンネルハウスの夜は更ける <目次に戻る

 確かトンネルハウスと言ったと思う。
我々のホテルに隣接する、ライブハウスである。
いつも屋上で一杯やり乍ら、隣から聞こえて来る、レゲェやロック
が気になっていた。

 帰国の日も近いある夜、行って見る事にした。
何せすぐ隣なのだ。
店の中に入って行くと、ビリヤードの台が並んでいる。
その右側にダンスフロアが有り、それを取り巻く様に、ボックス席が
用意されている。
良く見るとその一角に、DJコーナーがあり、実はここはディスコ
だったのだ。

 大音響で聞こえて来るドラムの音が、結構音を筈したりしていたので、
てっきりライブハウスだと、思い込んでいた。
有名なバンドでも、音を筈す事がある様だ。

 店はまだ時間が早いせいか、客は殆ど居らず、我々の対面に、
白人女性が二人居るだけである。
後で分かったのだが、アルジェリアから来ていると言うこの二人の
女性は、とても元気が良く、ダンスフロアに出づっ張りで踊って
いた。
後は時折、ここの従業員が出て来て、踊る位いである。

 暫く我々は、おとなしく席で飲んでいたのだが、若くて元気な
アフリカ女性が、席に戻ったのと交代で、フロアで踊った。
私は年のせいか、一〜二曲踊ると腰に利て、すぐ席に退散した。
一人になった山本は、水を得た魚の様に元気になり、所狭しと
踊っている。
そして周りで見ている従業員に、

 「カモン!カモン!」

と挑発するのだが、皆山本の踊りの毒気にあてられ、只茫然と見て
いるだけで、踊る者はいない。
その後随分と客も来たのだが、山本が踊ると客が席に戻り、
山本が席に戻ると客が踊り出すという、図式が何時の間にか
出来上ってしまった。

 所謂独壇場なのだ。

私は彼の踊りを初めて見たのだが、この男何でダンサーにならな
かったのだろうと、思ってしまった。
ダンサーか振り附け師にでもなったら、さぞ売れた事だろう。

 相変わらず元気で踊っている山本を、横目で見乍ら一人
席で飲んでいると、アルジェリアの女性が、やって来た。
彼女は私に、山本を目で合図し乍ら

 「あの人、何か(ドラッグ)やっているでしょ!」
 「あたしにも頂戴! あたしにも頂戴!」

と迫って来るのである。

 「いやいや、何もやっていない! 彼は普段からアーなのだ!」

と説明しても

 「ウソ! 絶対何かやってる!」

と、信じてくれないのだ。
この元気なアフリカ女性は、エキゾチックな美人なのだが、
私がいつも怒られている友人の妻君に似ているので、どうも
話し掛けられると、委縮してしまうのだ。

 我々がドラッグを持っていないと解ると、そそくさと、
 フロアに戻り何も無かった様に踊り出した

 その後も、踊らずに酒ばかり飲んでいる私に、先程の女性の
連れ、こちらはおとなしめのエキゾチック美人が私に、

 「一緒に踊りましょう!」

と、踊り乍ら手招きして来る。(実はこちらの女性の方が
タイプだった)
私は日本男児として、女性の誘いを無下に断わる訳にもいかず、
内心喜び勇んで、ダンスフロアへと出て行ったのである。
しかし寄る年波には勝てず、彼女とは二曲ほど踊っただけで、
身振り手振りで丁重に断り席に戻ったのだ。
自己陶酔し乍ら踊っている山本は、そんな事は露知らず、
後でこの話をすると、

 「なんでアタックしないんだ!!」

と、小言を言われたが、
私だって、内心チークダンスの一つも踊りたかったのだ!
しかしそこ迄、身体がもたなかったのである。

 残念!無念!
  今夜はきっと
   夢の中で彼女と踊ろう!

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