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あんなぷるな道中膝栗毛

15. 騙された修行僧(プジャリ) <目次に戻る

 ゴレパニの朝は早い、何故なら宿から一時間程登ると、
“プーンヒル”と呼ばれる見晴らしの良い場所があるからだ。
トレッカーは皆早起きをして登る様である。
我々も美しい光景を見たいので、朝暗いうちから歩き出した。
途中、健脚のフランス人に抜かれ、二番目に頂上に着いた。

ヒマラヤの朝_プーンヒル

 3200mの頂上で待っていると、徐々に空も白んで来た。
その頃になると、次から次へとトレッカーが登って来て、陽が
登る頃には百人以上の人が集まっていた。
“チヤ”(生姜入りのミルクティー)屋さんも出て、
一杯20ルピーで売っている。
彼等はポットを幾つも下から担ぎ上げているのだ。

 頂上の木製の展望台は、人でごった返していた。
我々は少し離れた場所から眺めていたのだが。ダウラギリ本峰に
陽があたり、徐々に紅く染まっていく様はとても美しい。
晴天が続いている為、この丘に雪は無かったが、大分温度は
下がっている筈である。

 陽も登り人気のひいた展望台の片隅で、私はお湯を沸かし
 コーヒーを入れた。

 ジョムソムからの飛行機が低空(と言ってもここ自体が3200m程
ある)で飛んで来る為、乗客の顔や、手を振っているのが分る。
我々は、ゆっくりとコーヒーを飲み、景色を惜しみ乍ら、
人気のまばらになったプーンヒルを後にした。

 宿に戻った我々は、朝食を済ませ、身支度を済ませ、宿の主人に
礼を言って出発した。
気の良い主人は、タトパニの宿等教えてくれた。

 本日の目的地タトパニ迄は、一気に1600mの下降である。
膝に持病を抱える山本氏には、かなりきつい山行である。
今日はロバの隊商や、波トタンを担いだ親子等、沢山の人々に
出会う。
しっかりとした石段と往来の多さは、古くからの街道を感じさせる。

 途中チェットリー、シーカ等美しい村を通り過ぎる。
この街道は坂がきついせいか、“チョータラ”(休憩場所)が、
まめに作ってある。
重たい荷物を背負って長くは、歩けないのだ。
我々は眺めの良いチョータラで食事を作る事にした。

 ネパールの即席麺は“ララ”か“ワイワイ”が一般的である。
ネパール通の中野氏の助言もあり、我々の間では、
ワイワイが人気だった。
今朝ゴレパニの雑貨屋で買えたので、自炊にしたのである。
アンナプルナから派生した尾根の遥か下に、世界一広い谷でもある
カリガンダキ川が横たわっている。
展望のきく場所での食事は、気持ちも良く飽きる事は無いのだが、
先が長いので出発する事にする。

 途中ガーラと言う美しい集落を過ぎると、尾根を切り通した為、
一ヶ所だけ、ザレ場の登りがあった。
丁度このザレ場を通過していた時だが、尾根の向こうから、
一人のプジャリ(修行僧)が現われた。
彼は私の前を通り過ぎ、後ろから来るどこから見てもインド人の
山本の所へ真直ぐに行った。
そして時間を尋ねたと言う。

 この山本、相当偏屈な男で、日本を発って一ヶ月近くたつのだが、
まだ彼の時計は日本時間の儘なのである。
従って3時間15分程時間が進んでいるのだ。
彼は一生懸命説明したと言うが、その時計を見たプジャリは、
足が切れそうななザレ場を、素足の儘、一目散に走り去って見えなく
なってしまった。
この若い修行僧、出会った相手が悪かった。

 まだまだ修行が足りない様である。

私は他にも山本に騙されたネパール人を知っている。
それと、これは内緒の話だが、この男最新のデジタル時計を
持っているが、時間を直せない様な気がする。
その証拠に、日本に戻る迄彼の時計はその儘だった。


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